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E7系/W7系は水害でなぜ廃車になるの?/鉄道車両の車体の構造について

鉄道車両の防水は

鉄道車両って宮沢賢治の「雨ニモマケズ」のように

雨にもまけず
風にもまけず
雪にも夏の暑さにもまけぬ
丈夫なからだをもち

毎日走っています。実際に相当な大雨でも吹雪でも負けずに走ります。なので上から下から前から後ろから横から水を浴びても大丈夫なはずなのに、なぜ昨年の台風19号で水没した北陸新幹線 E7系 / W7系は、屋内浸水していない F1 および F18 も含めて全部廃車になってしまったんでしょうか。

鉄道車両は実は水に弱い

意外だと思うのですが、鉄道車両は実は水にとても弱いです。特に湿気。空気配管内に結露することでさびの発生とそれに伴うバルブなどの動作不良なども起きる可能性がありますし、もっと厄介なのは湿気を浴びると電気機器や配線の絶縁が低下して漏電(地気)してしまい走れなくなります。なので、車両基地に長く留置する場合は、定期的に電気を入れたり構内を走らせたりして湿気を飛ばすようにします。

また、電気配線に湿気が入らないようにしっかりテーピングやシール材で穴をふさいで可能な限り水分が入り込まないようにします。そして極めつけはそういう配線はなるべく水がかからないように専用のラックまたは配管に通して保護します。これで電気配線を雨や雪の湿気から守っているんですね。

水につかるとどうなるの?床下浸水までの場合

では、実際に電車が水につかるとどうなるかの話になりますが、まず、床下機器やモーターの下面までの水であれば何も問題ありません。新幹線の場合レール面から20cmでレールは17.4cm、そして枕木の埋まっている道床は 15cm~25cm、そして路盤の上にあるので一般の地面からだいぶ高いところにあるので切通しのような区間でない限り水没することはありません。

次に床下機器が水につかる、つまり家でいえば床下浸水状態になった場合です。この深さになるには新幹線の場合レール面上 1mの水が必要で、この状態では台枠はまだ水につかりません。ここまでくると流石に床下の機器類はどんなに防水していても放熱のフィンやその他細かい隙間から毛細管現象とかで水が入ってしまうので全滅してしまいます。この状態になると床下機器は全部交換が必要です。また、水没した機器につながっている配線の一部も交換が必要になるかと思います。つまり、レール面上20cm までなら無問題、それを超えてしまい 1mまでであれば床下機器の交換修繕してしまえば復活できる可能性があるわけですね。

水につかるとどうなるの?床上浸水の場合

では、床上浸水の場合はどうなるかというと、ちょっと鉄道車両の車体の説明からしたほうが良いのでまずそちらの話をします。

昭和まで主流だった鋼製の電車の場合の車体断面は以下のようになっています。

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鋼板車両の車体断面

図の右半分は旧型電車から新性能電車に変わった当初の車両や、防音などをするための優等列車の車体構造です。床にキーストンプレートが貼ってありその上に硬木を挟んで詰め物してその上に床板貼ってフローリング貼る構造が昭和30年代までの電車の主流でした。そして、それより古い旧型電車はこの部分が全部木の床板という違いはあるのですが、基本的には同じです。

そして昭和40年代(実際には昭和30年代終わりころから)からは左のように構造が簡略化されています。でもどちらにしても台枠に柱を立てて屋根にタルキを回して外板と屋根板を張るという構造です。

そして台枠に空いている穴にパイプを通し、そのパイプの中に床下機器への配線を通します。なので、床下機器への配線は直接水を浴びることはないんですね。そして、台枠の下までの床下浸水であれば床下機器への対応だけで復旧できるわけです。

では本題、床上浸水になった場合にどうなるかというと、まずこの床下の配管が水没してダメになります。なので、これは配線と配管のパイプまたはラックを外して全部交換が必要。次に最初の鋼製車体の場合は右側の硬木の上に床を貼っている車両の場合、詰め物がコルクを使っているのでコルクに水が染み込み膨らんでしまい、床の全面張替えが必要になるためそこまでコストをかけて修理してまで使うかどうかの判断で廃車になるか修理して使うかの判断になります。これは実際に昭和 57年 8月 1日の台風 10号で関西本線王寺駅が水没して留置していた 101系と 113系が水没した際、101系は右側の車体構造の車両が大半だったので 60両すべてが廃車になっています。113系は左の車体構造なので 40両全車修理復旧しました。

ではステンレス車体だったらどうなのかというと、これ、実はその後のステンレス車体の車両でも同じ形で、変わるのは外板や柱、補強をどのようにするかというだけで大きな違いはありませんので、鋼製車体とさほど変わりはなく復旧できるかと思います。

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昭和のステンレス車体の車両の車体構造

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平成以降のステンレス車体の車両の車体構造

 

なぜ北陸新幹線 E7系 / W7系は廃車になるの?

これは車体の材質により構造が異なるからということにつきます。新幹線の車体は 0系、100系、400系、E1系は鋼製車体ですが、それ以外はアルミ車体、そして 200系、300系、そして E2系試作車はまだ柱にアルミの板を貼る旧来の構造(300系E2系試作車はシングルスキン構造)なので、これらの車両は万が一水没しても修復するのは鋼製車体と同じような形でできるので比較的困難ではなかったと思われます。

でも、それ以降の新幹線の車両は中空押出形材を使ったダブルスキン構造に移行していて、これは車体外側と内側そしてその間のトラスの補強材含めた中空のパイプ状に作ったものを積み重ねて溶接して作るので、鋼製車体やステンレス車体のように台枠に配管やラックを通す穴をあけてそこに配線を収めた配管を通すのではなく、中空の空間内に配線をそのまま通し配管として使ったり、車体長手方向にパイプ状になっているので空調のダクトとしても使うようになっています。

図を描くのが面倒だったので、E2系の資料からの抜粋。中国語なのは JR東日本E2系の図面が手元になくて、その中国版の CRH2 のがあったので、車体としては全く同じなのでそのままつかいました。

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CRH2 断面図

見るとわかるように車体側面は台枠より上で 4枚の中空押出形材を使ったパネルで構成されていて、天井も両肩それぞれのほかに中央は3枚の中空押出形材を使ったパネルで構成されています。実はこの中空押出形材の空間が問題になるんですね。

次は実際の E7系の断面です。

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E7系車体断面

E7系の車体断面も E2系と同じパネル構成になっているのがわかるかと思います。そして窓のところはパネルを溶接後に穴をあけている、つまりパイプの途中を切って窓になっている形になります。このパイプの部分が完全に防水されていて水が浸入しないようになっていればよいのですが、配管や空調ダクトにつかっていたり、窓やドアのためにパイプの途中を切断している状態にあるので、車体強度的にはそれでも十分な強度があっても少しでも隙間や穴があれば水は侵入します。そしてきれいな水であればよいのですが洪水で汚染された水が浸入したとなるとその洗浄と消毒は見えない部分への処理になるので限りなく困難なのはわかるかと思います。今回の水没では窓のすぐ下まで水没していますのでドア脇からこれらの中空パイプ状の部分に浸水していると思われますし、それを確認しながらすべて洗浄と消毒をしていく対応ができないということなんだろうなと思います。

ほかの鉄道車両の車体構造の違いでの被害の差

ステンレス車体での構造が良いのか、それとも強度と軽さの両方に優れるアルミ車体が良いのかは鉄道事業者の判断によると思いますが、例えば先日の 5月 8日に外房線の直線区間で脱線した209系は上の図の「ステンレス車体の構造(その2)」なのですが、その車体構造として登場した最初の車両のため車体強度的に弱い部分があります。実際に同じ車両が平成14年 1月 19日に蒲田の車両基地内で脱線した際に車体に歪みが出てしまって車体を作り直しています。そして、外房線で脱線した車両も2015年4月17日 内房線で踏切事故、2016年8月22日 内房線台風9号での倒木に衝撃、2019年8月6日 総武本線で踏切事故と立て続けに事故を起こしていて、最後の2019年8月6日の事故では車体の正面を取り換えるくらいの修理を2か月かけて行って復帰していますが、それから 7か月後の脱線、やはり車体に歪みがあるのではないかなと思います。

他の JR東日本ステンレス車で事故を起こした車両は車体の代替新製しているのですが、この 209系の修理をしたのは近いうちに投入される E131系までのつなぎだからということもあったかもしれないですね。
昔の車両は車体が重く台車も複雑な構造をして重くでも線路状態が悪くてもどうにか追従できるものでしたが、209系のように車体がとても軽くて台車もボルスタレスでシンプルな構造の場合、ちょっとした狂い(車両側や線路側)が脱線の引き金になるので、事故の後はしっかり確認してほしいかなと思いました。
追記
置き石という情報が出ていますね。レール上の異物を跳ね飛ばす排障器自体はレール面上 2.5cmで、その下レールまでの間にゴムの排障器をつけて実質 1cm くらいしか隙間がないようにしているので、それより薄い石なのかということと、そうではない場合は踏切の線路の隙間(フランジウエイ)を石で埋めたの?と思ってしまいます。追加の事故調査結果を待ちたいですね。
https://this.kiji.is/633251420441674849